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考案を的確に把握するとともに、充分に実施の形態を開示する必要があります。
(1)考案を的確に把握する。
最初に行わなければならないとても大切な作業です。
考案の把握を誤ってしまって、ボタンの掛け違いをしてしまうと、その後の調査・出願の労力と費用がすべて無駄になってしまいますし、他社の権利侵害の火種をつくることになります。
考案を的確に把握できなければ、有効な実施形態を開示することもできません。
では、具体的にどのようにすれば、良いのでしょうか。
まずは、あなたの考案を客観的に把握してみましょう。
・これまでは、どのようにやっていましたか(従来技術)。
・従来やり方には、どんな不具合(課題)がありましたか。
・あなたはその不具合(課題)を、どのような物品の形状、構造又は組合せにすることによりどのように解決しましたか(手段)
・その結果、どのような効果が得られましたか(効果)。
そして、上記のうちの手段・構成が、権利化をしたい部分になります。
ここで、理解の容易のため、簡単な文房具の発明について、「転がり防止の鉛筆」を例に取りますと、以下のようになります。
・従来、鉛筆は、円柱状の形状であった(従来技術)。
・円柱状の形状だと、斜めになっている場所に置くと、転げ落ちてしまい、芯が折れやすいという問題点があった(課題)。
・そこで、鉛筆の断面形状を三角形、六角形のように多角体形状とした(手段・構成)。
・その結果、転がりにくく、転げ落ちて芯が折れることもないという効果が得られる(効果)。
そして、「鉛筆の断面形状を三角形、六角形のように多角体形状とした」手段・構成が、権利化をしたい部分になるわけです。
機械の考案についても同様です。
例えば、実用新案登録第3160622号に記載されている箱封緘装置(下図参照)を例に採ってみます。
(箱封緘装置を箱との関係で例示する正面(一部縦断面)図)
(箱封緘装置の作用状態を示す正面(一部縦断面)図)
・従来の箱封緘装置では、内側に折り曲げた内フラップと外フラップとを圧着するとき、先ず第1圧着プレートにより、箱を押圧して動かないようにし、次に第2圧着プレートにより、内側に折り曲げた外フラップをそれよりも内側の内フラップの方向へ側面から押圧して双方を圧着するようになっていた(従来技術)。
・しかしながら、第2圧着プレートによる圧着時に、ほぼ垂直に内側に折り曲げた内フラップが、かかる内フラップよりも箱の内側に形成されている隙間に入り込んでしまうため、言い替えれば更に内側に折れ曲がってしまうため、外フラップを側面から押圧しても内フラップと外フラップとを充分に圧着することができなかった。
そこで、外フラップに内フラップを臨む通気孔を設け、双方を圧着プレートで圧着するときに、該通気孔を介して内フラップを外フラップに吸引するようにしたものや、圧着プレートをその中央部を周辺部よりも突出させた形状の山型としたもの等が提案されているが、圧着プレートの構造が複雑で、操作も厄介であったり、内側に折り曲げた内フラップの更に内側に相応に大きな空間が残っているような場合等必ずしも全ての箱には適用できないという問題があった(課題)。
・そこで、内側に折り曲げた内フラップ(31a)とこれに被せるように直交する方向から内側に折り曲げた外フラップ(51a、51b)とを接着剤(41a)を介して圧着することにより箱を封緘するようにした箱封緘装置において、内側に折り曲げた内フラップ(31a)と直交する方向から箱を押圧するための第1圧着プレート(61)の押圧面に、内側に折り曲げた内フラップ(31a)を延長上に臨む位置にて突起部(1a)を設け、第1圧着プレート(61)の押圧時に突起部(1a)により箱の内側に突出部(1C)を形成するようにした(手段、構成)。
・この結果、圧着プレートの構造が簡単であり、操作も容易であって、他の装置類を必要とせず、しかも広い適用範囲を有し、突出部(1C)によって内フラップ(31a)と外フラップ(51a、51b)との圧着時に該内フラップ(31a)が内側へ入り込むのを防止して、内側に折り曲げた内フラップ(31a)と外フラップ(51a、51b)とを充分に圧着することができる(効果)。
このように従来例、課題、課題を解決するための手段、効果を明確に把握することにより、何が権利化したいのかを容易に把握できます。
(2)充分な実施形態を開示する。
上記のように的確に把握された考案を強い実用新案にするためにはどのようにすればよいでしょうか。
強い実用新案というのは、基本的には次の3つの要件を備えている実用新案だといえます。
すなわち、
1)侵害追求が容易である、
2)登録性が高く、無効になりにくい、
3)解釈上の疑義が生じにくく、隙がない、
という要件です。
これらをバランス良く備えた特許が強い特許となります。
それでは、それぞれの要件について検討してみましょう。
1)侵害追求が容易である。
侵害追求が容易であるためには、さまざまな実施形態(手段・構成)を包含する請求項が記載されている必要があります。
すなわち、製品(実施品)態様の請求項だけでは、侵害の要件の立証が容易でなく、侵害追求が困難となることもあり得ます。
例えば、上述の箱封緘装置を例にとると、実際の製品と同一の構造を有する箱封緘装置だけを開示し、実用新案登録請求の範囲を記載する請求項に記載していたのでは、ちょっとしたアレンジがなされた箱封緘装置を製造等している者について、侵害を追求できません。
したがって、これらの者にも侵害が追求できるように、基本的な構成(第1圧着プレート(61)の押圧面に、内側に折り曲げた内フラップ(31a)を延長上に臨む位置にて突起部(1a)を設け、第1圧着プレート(61)の押圧時に突起部(1a)により箱の内側に突出部(1C)を形成する)を同一とする様々な態様に対応する請求項を記載するのが好ましいこととなります。
より具体的には、突起部(1a)を設ける位置としての「第1圧着プレート(61)の押圧面に、内側に折り曲げた内フラップ(31a)を延長上に臨む位置」の具体例、特に「延長上に臨む位置」を満たす条件(定義)が明確、かつ、広い権利範囲となるように様々な態様を記載することが望まれます。
また、突起部(1a)の形状、ひいては、突出部(1C)の形状についても、半球状としたり、三角柱、四角柱などの角柱状、円錐、四角錐などの錐状など考えられる様々な態様を記載しておくのが好ましいです。
すなわち、自己の権利範囲を逃れて他人が実施するであろうと考えられる実施形態(変形例)についてできる限り記載しておくことが望まれます。
また、より広い権利範囲、すなわち、技術的範囲が広く解釈できる請求項(より上位概念の請求項)が記載されていれば、侵害の様々な態様に対して、侵害をより確実に追求することが可能となります。
具体的には、上述の例の場合には、「第1圧着プレート(61)の押圧面に、内側に折り曲げた内フラップ(31a)を延長上に臨む位置にて突起部(1a)を設け、第1圧着プレート(61)の押圧時に突起部(1a)により箱の内側に突出部(1C)を形成する」構成のうち、「第1圧着プレート(61)の押圧面」に突起部(1a)を設ける必要があるのか、突起部(1a)を設ける位置は、「内側に折り曲げた内フラップ(31a)を延長上に臨む位置」である必要があるのか、等を検討し、これらの構成が必ずしも必要でない場合には、それらの記載を除いた請求項をさらに作成し、対応する実施形態を記載しておくことが望ましいです。例えば、突起部(1a)を別の部材に設けて第1圧着プレート(61)の押圧面により当該別の部材を押圧するような態様が考えられれば、「第1圧着プレート(61)の押圧面に突起部(1a)を設けある」という構成は限定しすぎですので、このような限定を削除した上位クレームを記載することも考えられます。
2)登録性が高く、無効になりにくい。
登録性が高く、無効になりにくくするためには、従来技術との技術思想上の相違を可能な限り主張できるように分析し、明細書に記載しておく必要があります。
すなわち、従来技術の構成と出願発明の構成との差異を明確にすることはもちろん、従来技術の構成と出願発明の構成との差異よってもたらされる作用・効果の差異を明確にしておく必要があります。
この結果、進歩性の根拠を主張しやすくなり、無効原因をより回避することができます。
3)解釈上の疑義が生じにくく、隙がない。
さらに解釈上の疑義が生じにくく、隙がないということは、用語が明確(社内用語等は用いず、JISで用いられている用語を用いる)であるとともに、技術的範囲が明細書に開示された実施形態に基づいて解釈されたとしても必要以上に限定解釈されないように充分な実施形態を開示しておくことが望まれます。
そして、上記の要件を満たすためには、より多くの実施形態をご呈示いただくことが必要となります。これにより、より上位概念を抽出し、必要以上に限定解釈されないように充分な実施形態を開示した強い権利を生み出すことが可能な明細書を作成することができるのです。
ところで、実用新案登録の保護対象は、物品の外観、構造あるいは組み合わせであり、基本的には、機械において目に見える構成およびその背後にあるアイデアを権利化することにあります。
従いまして、具体的な装置構成、動作手順などを可視化しつつ、かつ、可視化された範囲内に権利が限定されないように様々な視点から表現していくことが大事になります。
このために必要な資料としては、以下のようなものが挙げられます。
(A)機械の形状、構造、組み合わせを説明するための資料
(B)機械の動作、使用状態を説明するための資料
以下、より詳細に説明します。
(A)機械の形状、構造、組み合わせを説明するための資料
機械の形状、構造、組み合わせを説明するための資料は、どのように発明を具現化したのかを明確にするために、具体的な物品について説明します。
例えば、
(1)物品の形状、構造、組み合わせを説明するためには、単一の機械であれば良いのであれば当該機械の外観図および発明に関連する部分の拡大図(例えば、加工対象の部材を保持する機構に特徴があるのであれば、当該保持機構の拡大図)が必要です。
具体例:
(平面図)
(出典 実用新案登録第2603086号公報)
(外観図)
(出典 実用新案登録第2586565号公報)
(斜視図)
(出典 実用新案登録第2558075号公報)
(断面図)
(出典 実用新案登録第2558075号公報)
(要部の拡大図)
(出典 実用新案登録第2558075号公報)
(B)機械の動作状態、使用状態を説明するための資料
機械の動作状態あるいは設置状態を説明するためには、動作説明図や設置状態説明図などが必要となります。
(加工完了時の説明図)
(出典 実用新案登録第2570143号公報)
(設置状態説明図)
出典 実用新案登録第2542792号公報)
上述したような資料を当初からそろえるのはなかなか難しいことと思います。弊所に実際にご相談いただく際には、こんな機械を使ってこんなことをやっているんだけど……、というようなご説明でも結構です。可能な限りの資料を持ってきていただき、お打ち合わせの中で、必要な資料をそろえていきましょう!
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