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■照明装置付歯鏡事件(東京高裁S.12.05.17 平成12年(行コ)22号) |
●事件の概要
控訴人(実用新案権者)が、非控訴人(特許庁長官)に対して、実用新案登録についての実用新案技術評価書において、請求項1を評価1とし、請求項2を評価2とした実用新案技術評価を取り消しを求めた事件。
●裁判所の判断
控訴人の主張は、要するに、実用新案技術評価が「1」から「5」までのいずれかであれば、企業等が当該登録実用新案の実施権者となろうとはしないから、該「1」から「5」までのいずれかの評価が、当該実用新案権を実質的に無効とする処分であるというものであると解される。
しかしながら、・・・行政事件訴訟法3条2項の「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであり、このことは、具体的な行政庁の行為が右の「処分」に当たるか否かは、当該行為の根拠となる行政法規が、当該行為を、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものとして、規定しているか否かに係ることを意味するものである。
しかるところ、控訴人の主張するような、実用新案技術評価が「1」から「5」までのいずれかであれば、企業等が当該登録実用新案の実施権者となろうとはしないとの実用新案権者の不利益が仮に存在するとしても、それが、実用新案法が実用新案技術評価によって直接形成し、又はその範囲を確定するために規定した国民の権利義務に相当すると解すべき根拠は、同法上、全く存在しないから、単なる事実上の不利益であるといわざるを得ず、かかる不利益があることを理由として、実用新案技術評価が行政事件訴訟法3条2項の「処分」であるとすることはできない。
控訴人の主張は、要するに、実用新案法29条の2によって、実用新案権者が、損害賠償請求権等の権利行使をするに当たって、実用新案技術評価の請求をし、「1」から「6」までのいずれかの評価を受けること、及び警告時に実用新案技術評価書を提示して、該「1」から「6」までのいずれの評価を受けたかを相手方に知らせることを義務付けられているから、実用新案技術評価は、その内容いかんにかかわらず、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められている「処分」であるというものであると解される。
しかしながら、実用新案法29条の2は、「実用新案権者又は専用実施権者は、その登録実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をした後でなければ、自己の実用新案権又は専用実施権の侵害者等に対し、その権利を行使することができない。」と定め、実用新案技術評価書を提示することを、実用新案権者の権利行使の一要件としているにすぎないのであり、当該実用新案技術評価書に記載された実用新案技術評価が「1」から「6」までのいずれかの評価であること(例えば、評価6であること)は、該権利行使の要件とはされていない。すなわち、実用新案技術評価自体は、実用新案権者の右権利行使に何ら影響を及ぼすものではないのである。
しかるところ、本件において、控訴人が、行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たるものとして、その取消しを求めているのは、・・・実用新案技術評価自体であり(実用新案技術評価書は、その実用新案技術評価を特定するために記載されているにすぎない。)、また、右の「処分」とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものであることは前示のとおりであるから、実用新案法29条の2によって、実用新案技術評価書の提示が実用新案権者の権利行使の一要件とされているからといって、控訴人が、本件において、取消しを求めている実用新案技術評価が右の「処分」に当たるとすることはできない。
したがって、・・・本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
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コメント |
実用新案技術評価の法的性質についての裁判所の判断です。実用新案技術評価の行政処分性を否定しました。 |
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